この本も養老孟司の本です。
よりみちパン!セという子供向けの教養本シリーズがあって、谷川俊太郎も関わっていて、しかも挿絵は売れ線の100%ORANGE/及川賢治が描いているという、本です。

http://www.rironsha.co.jp/special/series/main.html
とおもったら、ヤングアダルト新書で対象は中学生以上とのこと
「学校でも家庭でも学べない「いま」を生きていくためのたいせつな知恵のかずかずについて、刺激的な書き手たちが、中学生以上すべての人に向けて、読みやすくコンパクトなかたちで書き下ろします。」

子供が養老孟司に対して色々な素朴な疑問を投げかけて、それに答えるという体裁です。
私はとにかく言葉系のところに反応してしまうので、そのポイントを中心にメモ書き。
P111
日本人の脳の特徴を知りたいです。
日本人の脳はほかの国の人の脳と、どうちがうんですか?それに死ぬまでぜったいに外国人の脳になることはないのですか。それから、国による脳の違いを教えてください。
香織さん(15歳) 高一・山口県

まず第一に、日本人の脳で一番特徴があるのは、言葉に関連した部分です。
そして、日本語くらいヘンな言葉はないんですよ。どこがヘンかというと、漢字を音訓読みするところなの。音訓読みなんて、そんな字の読み方をするところは、世界中で、ほかにどこにもない。

中国語は、あたりまえですけど、音読みです。朝鮮語は漢字が入ってきたとき、全部音読みとして取り入れた。ところが、日本は漢字に送り仮名をつけて、訓読みにもする。つまり、漢字を日本語にしちゃったんです。みんな、ほとんど気づいていないけどね。
それから、「失読」っていって、字が読めなくなる場合、漢字が読めなくなる人と、仮名が読めなくなる人が療法いるんです。しかも両方いっぺんによめなくはならない。そんなに大きく壊れると、意識自体が失われます。
リービ英雄との対談でもこの話が出てますが、 私が一番疑問だったのは、中国や朝鮮半島の人も漢字を使う。表意文字という漢字を使うけど、それは私たちはどうも漢字は絵として認識しているみたいだけど、中国や朝鮮半島の人もそうなのかどうか、ってところが知りたかったんですよ。でも、上記の話から行くと、そうではない、ということになりそうですよね。

それで、私は前々から日本の顔文字はすごい豊穣な文化だと思っていて、これは全然アルファベットの言語の人たちは全然かなわないんですね。顔文字の種類、表現の豊富さともども全然違うんです。なんでだろう、というのを思っていたんですが、日本語は2バイト文字ですからローマンアルファベットの人たちが使える文字数に比べたら、桁違いに多いので、使う文字の選択肢が多ければ、それだけ豊富な表現ができるだろう、ということは考えられるな、と思っていたんです。

参考リンク:多バイト文字とは 【multi-byte character】 ─ 意味・解説 : IT用語辞典 e-Words
http://e-words.jp/w/E5A49AE38390E382A4E38388E69687E5AD97.html

でも、それなら同じ漢字を使う中国や朝鮮半島でも豊富な顔文字文化が生まれていても全然おかしくはないはずですよね。でも、みたところそれほどでもないようです。あ、でも韓国は結構独自の顔文字文化があるようです。

参考リンク:韓国の顔文字
http://www.kijeon.ac.kr/kms/sms/imo.asp?key=%C3%E0%C7%CF/%B1%E2%B3%E4
これは、でも、主に携帯メールで使う顔文字のようです。日本のと同じスタイルがありますが、どっちの文化がどっちに流入したのかはちょっと良くわからないですが。(おそらく日本→韓国だろうけど、確証がないのでなんとも言えません)
http://www.kijeon.ac.kr/kms/sms/imo.asp?key=%BB%E7%B6%FB/%B0%ED%B9%E9
こっちのページをみると、ハングルで色々な造形を作っている。

私もこのたぐいのページは色々と探しましたが、中国語圏のものって見たことないです。
そういう意味で言うと、やはり日本と朝鮮半島&中国は違うということなのかもしれません。
中国にも朝鮮半島にも失読症は1種類しかないのでしょうか。

じつは、漢字を読むための場所と、仮名を読むための場所って、脳の中で違う場所にあるんです。
だいたい日本の漢字の読みというのは、一つの漢字に対して、いくつもいくつもあるわけでしょ。「重」を”「重」い(おもい)”とも読み、”「重」ねる(かさねる)”ともよむ。(中略) それに今度は「大」を続ければ”「重」大(じゅうだい)”、”「重複」(ちょうふく)”という読み方もある。(中略) そんな風に、日本語は、文字と音声を、簡単には結び付けられない言語なんです。

だからね、まず漢字のもっている意味を、先にとる、ってわけでしょ。これはね、日本でマンガがこれほど盛んなことと、あきらかに関係がある。どうしてかというと、マンガの絵は漢字なんです。ふき出しが、読みにあたります。しなわち、一つの意味を持った図形に対して、いろいろな音声をふることもできるわけだよね。(以後略)
そうなのよ!これがまさに私が知りたかったことなんです!
フランスにもバンド・デシネといって、フランス独特のマンガ文化があるし、ほかの国のマンガもいろいろ見てみたのですが、表現が全然違うんですよね。フランスのBDの展覧会に行ったときの事を書いたエントリがあります。マンガに詳しい大学の先生に、そのあと日仏のマンガの表現の違いは日本が表意文字を使っているからではないか、という質問をしたのですが、以下のような答えをいただいています。

「表音・表意文字文化とかでなく、絵というものについての概念の違いだと考えます。西欧では、ギリシア&ルネサンス以来、絵を視野の再現としか考えない。これに対して非西欧圏(日本ないし東アジアだけでない)では絵は平面上にセットされる記号です。後者では、絵は、文字やその他の表現伝達ツ-ルと容易に混じるのです。 詳細を書く余裕がないのですが、これは、今日グロ-バル化している西欧文明と、非西欧文明との対立の問題と繋がってます。」

ということで、これまた違う角度からの考え方がありますが、それでも養老孟司のマンガの絵の部分が漢字で、セリフがカナだというのはとてもすんなり納得できるような気がします。というのは、日本的なマンガの表現をしている国が、欧米以外のマンガで余りなかったような印象があったからです。あるいは、あっても、明らかに日本のマンガの影響を受けているな、というものです。ま、とはいえ、私は別にしらみつぶしに中国とか韓国のマンガを調べたことがあるわけではないので、うかつなことはいえないのですが。

とにかく、私が感じたことは日仏マンガの違いは「やはり文字と絵が渾然一体になっている。それに対して、フランスのマンガは絵とセリフ内の文字が明確に区別されている。お互いがお互いの領域を侵したりはそれほどしない。」ということです。あと、汗とかガーンとかそういうのも擬音語だけではなくて、擬態語もふんだんに絵と一緒になっているのが日本のマンガだと思いました。

顔文字についても、何かこの辺と関係があるのではないだろうか、と思うのです。
日本の顔文字ではギリシャ文字や数式の文字も大活躍します。
たとえば、こんなの「(・ω・*)」とか、こういうの「Σ(゜◇゜;)ガーン」とか、こんなの「(・∀・)」です。
それは、文字として見ているわけではなくて、造形をつくるパーツとして見ている。漢字がマンガの絵なら、漢字は造形を作るパーツとして見ることができます。だから、意味や読み方のわからないギリシャ文字などは、漢字と同じくくりで認識しているのかしら、などと思いました。

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